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チャレンジは「買うだけ」で期待値プラスか|コイントスEAを自作して16本バックテストした【考察】

公開日: 2026/8/31更新日: 2026/9/27

※ 本記事は考察(オピニオン)です。投資助言ではありません。バックテストは過去データに対する検証であり、将来の成績を保証しません。ランダムエントリーを推奨するものではなく、各社の規約に抵触する可能性についても本文で触れています。ファーム固有のルールは頻繁に更新されるため、必ず各社公式サイトでご確認ください。(最終更新: 2026年8月31日)

問い:受験料に対して、チャレンジは「おいしい」のか

前回、コイントスでもフェーズ1は5割前後通ることを厳密解で示しました。そこから自然に出てくるのが次の問いです。

受験料10.88万円を払って、期待値がそれを上回るなら、機械的に買い続ければいいのでは?

しかも工夫がひとつあります。SL/TPをスプレッドの40倍に置くというものです。こうすると1回あたりのコストは常に「スプレッド1回分 ÷ 40 = 賭け金の2.5%」に固定され、通貨ペアの絶対値が式から消えます。

この着想は正しいのか。専用のEAを書き、さらに本番EA(ELDRA)にも組み込んで計24本のバックテストを回しました。

先に結論を3つ書きます。

  1. 理屈は全部正しかった。 勝率は理論48.75%に対し実測48.71%。RRを変えても1手の期待値が動かないことも式のとおりでした
  2. 期待値はプラスだった。 実測トレード分布から解いたチャレンジ1本の期待値は受験料10.88万円に対して**+11.9万円**(95%信頼区間 +1.8〜+38.1万円)
  3. ただし律速は数学ではない。 ギャップ、規約、そして「Funded後に本当に出金できるか」が残ります

先に断っておくと、第9章までの数値は「1日1回」に制限した設定のものです。 これは1手あたりの経済性を切り出すための実験条件であって、推奨設定ではありません。第10章でこの制限を外したところ、突破率を落とさずにチャレンジ1本の決着が139日から7日に縮みました。急ぐ方は第10章から読んでください。

1. 「スプレッド×M」は何を固定するのか

SLとTPをエントリー価格から等距離(M×スプレッド)に置くと、こうなります。

値幅発生確率
勝ち+M×スプレッドp = (M−1) / 2M
負け−M×スプレッド1−p

損益は対称なのに勝率のほうが50%を割る点が肝です。買いはAskで入りTPはBidが到達して発動するので、勝つには (M+1) スプレッド分、負けるには (M−1) スプレッド分しか動く必要がない。この非対称が「支払うスプレッド」の正体です。

M=40なら p = 39/80 = 48.75%。1回の期待値は

M・s ×(p − (1−p))= M・s ×(−1/M)= −s

ちょうどスプレッド1回分。ここに通貨ペアの情報は一切残りません。着想は正しいです。

RRを変えても期待値は1ミリも動かない

「ならRRを1:2、1:3、1:4にしたら?」と考えるのが自然ですが、こちらは数学的に無意味です。TPをRR倍にすると勝率は p = (M−1) / (M(RR+1)) になり、期待値を計算するとRRが綺麗に約分されて消えます。

M・s ×(p・RR −(1−p))= −s

RRが1でも4でも、1回の期待値は常に −1スプレッド。 RRが効くのは期待値ではなく必要トレード数の経路だけです。RRを上げると決着が速くなり、その結果として支払う総スプレッドが減ります(後述)。

2. 業界も同じ枠組みで語っている

この見方は目新しいものではなく、海外では 「ドローダウン1ドルあたりの受験料コスト」 という指標で普通に議論されています。$100Kの口座・受験料$500・最大DD $10,000なら、$0.05 / DDドル(5.0%)という具合です。

なぜドローダウンで割るのか。公平な賭けなら、Funded口座から期待できる総利益はちょうど最大DDの分だけだからです。

これはマルチンゲール(公平な賭けの停止定理)から出てきます。残高が+W%に届いたら出金して初期残高に戻す、というサイクルを失格まで繰り返すとします。1サイクルの成功確率は p = DD/(W+DD)、成功回数の期待値は p/(1−p) = DD/W、1回あたりW%引き出すので

期待総利益 = W × DD/W = DD

出金幅Wをどう選んでも、期待抽出額は最大DDそのもの。 ファームが賭けている金額がそのまま出てくる、という直感どおりの結果です。

Fintokei ProTraderで言えば最大DD 10%、分配80%なので、Funded口座1つの期待価値は口座の8%。サファイア2000万円なら160万円です。受験料は10.88万円(口座の0.544%)。

3. モデル上の期待値

あとはゲートを掛けるだけです。

EV = P(Phase1) × P(Phase2) × 0.8 × 最大DD − 受験料

吸収マルコフ連鎖を線形方程式で解いた厳密解がこちら(Fintokei サファイア2000万円・目標8%→6%・最大DD10%・分配80%・受験料0.544%)。

SL幅1回のリスク勝率Phase1Phase2Funded期待EV
×201%47.50%34.0%43.5%3.90%+3.3万円
×401%48.75%44.4%52.9%7.67%+18.0万円
×404%48.75%57.0%57.0%10.60%+44.2万円
×804%49.38%58.5%58.5%11.27%+50.8万円

モデル上は明確にプラスです。受験料10.88万円に対して、×40/リスク4%なら4倍。

そして1回のリスクを大きくするほど有利という、直感に反する結果が出ます。理由は単純で、総コストは (リスク × SL幅) に反比例するからです。必要トレード数はリスクの2乗に反比例して減るので、大きく賭けたほうが支払う総スプレッドが少なくて済む。同じ理由でRRを上げても総コストは下がります(×40・リスク1%で、RR1:1の127手→RR1:4の38手)。

ここまでが机上の話。問題はこれが本当かどうかです。

4. 検証用EAを書いた

ELDRAは配布中の本番EAなので触らず、検証専用の最小EAを新規に書きました。他の機能が交絡しないぶん、仮説の純粋なテストになります。

  • エントリー方向は MathRand() のコイントス(シードで試行を変える)
  • SL = 直近スプレッド中央値 × M、TP = SL × RR
  • ロットは「SL到達時の損失=基準残高のR%」になるよう OrderCalcProfit() で逆算
  • スプレッドが中央値の1.5倍を超えている間は発注しない
  • 1日1回まで(※後述のとおりこれは不要な制限でした)

1日1回に絞ったのは、1手あたりの経済性だけを切り出したかったからです。1日に何回も打つと日次ドローダウンの壁が絡んで、スプレッドの効果と日次DDの効果が分離できなくなる。まず素の1手を測り、それから頻度を上げる、という順序にしました。

結果としてこの制限は回転率を無意味に殺していただけで、第10章で外します。第9章までの日数はこの制限つきの数値だと思って読んでください。

スプレッドに中央値を使ったのは、月曜オープンの暴騰を踏まないためです。最初の試行では瞬間スプレッド160ポイントの瞬間に建ててしまい、口座の60%を1発で溶かしました。

条件は Fintokei ProTrader サファイア相当(2000万円・実ティック100%・2025年9月〜2026年8月・XAUUSD)。Fintokei ProTraderは最大DD・日次DDとも静的かつBalance基準なので、含み損を無視して確定損益だけで判定できます。

5. 実測結果:理論はぴたりと当たった

RR別に3シードずつ、計12本+通貨ペア比較4本。

RR取引数実測勝率理論勝率平均勝ち平均負け
1:173548.71%48.75%+0.9905%−1.0078%
1:264834.72%32.50%+1.9914%−1.0114%
1:358923.26%24.38%+2.9436%−1.0174%
1:454622.34%19.50%+3.8701%−1.0168%

RR1:1で実測48.71%、理論48.75%。 差は0.04ポイント。p=(M−1)/2M という式は実データでそのまま成立していました。

コストの内訳も取れました(1手あたり・口座比)。

項目値
値洗い損益−0.0689%
コミッション−0.0016%
スワップ−0.0016%
合計−0.0721%

コミッションとスワップは合わせて0.0032%で、ほぼ無視できるというのは意外でした。平均保有時間12.6時間でオーバーナイトを跨いでいるにもかかわらず、です。

一方で平均勝ち0.9905%に対し平均負け1.0078%と、負けのほうがわずかに大きい。これは指値と逆指値の約定差(ストップ側のスリッページ)で、理論には入っていない実コストです。

6. しかし、この検証には決定的な限界がある

ここが本記事でいちばん重要な部分です。

1手の期待値の測定精度を計算すると、こうなりました。

RR取引数1手期待値95%信頼区間判定
1:1735−0.0345%−0.108 〜 +0.039%理論と矛盾せず
1:2648+0.0313%−0.080 〜 +0.143%理論と矛盾せず
1:3589−0.0961%−0.232 〜 +0.040%理論と矛盾せず
1:4546+0.0751%−0.098 〜 +0.248%理論と矛盾せず

信頼区間が全部ゼロをまたいでいます。 RR1:2と1:4は点推定が「プラス」ですが、これはノイズです。公平なコインでコストを払っている以上、期待値がプラスになることは数学的にありえません。

理由は明快で、測りたい効果(−0.025%)が1回の損益のブレ(±1%)に対して40分の1しかないからです。

−0.0250%を95%信頼で検出するには約6,532取引が必要。1年のバックテストで取れたのは735取引。9倍足りません。

これは「バックテストが下手」なのではなく、1手あたりの期待値はバックテストで測れる量ではないということです。1日1回のペースなら26年分のデータが要ります。

ただし測れないのは「1手の期待値」であって、「チャレンジ1本の期待値」は測れます。微小な差が「壁に当たるか目標に届くか」という二択に増幅されるからです。この推定は第11章で行います。

こういう場合、厳密解のほうが信頼できる情報源になります。 期待値が −1スプレッドで固定されるという結果は、価格がマルチンゲールでありさえすれば成立する構造的な帰結で、価格分布の仮定をほとんど必要としません。

なおチャレンジ突破率のほうは、非重複(独立)な窓だけで測れば理論とよく合いました。

1回のリスク実測(独立窓)95%信頼区間理論
1%33.3% (n=6)0〜71%44.4%
2%45.5% (n=33)28.5〜62.4%50.0%
4%47.1% (n=87)36.6〜57.6%57.0%

※ 重複する窓で測ると実効サンプル数が数本まで落ち、まったく当てにならない数字が出ます。筆者は途中でこれに引っかかり、「系列相関がある」と誤った結論を出しました。分散比検定をかけたところ有意な相関はなく、単なる重複窓の見せかけでした。

7. 「通貨ペアを選ばない」は半分だけ正しい

これは検証してはっきりしました。コスト比はたしかにペアに依存しませんが、取引頻度は桁で違います。

銘柄1年の取引数1取引あたり
XAUUSD247回1.5日
EURUSD63回5.7日
USDJPY24回13.5日
GBPJPY10回32.3日

同じ「スプレッド×40」でも、決着までの時間が20倍違う。スプレッドとボラティリティの比が銘柄ごとに違うからです。GBPJPYは1取引に平均32日かかるので、チャレンジ1本を終えるのに何十年もかかる計算になり、実質的に使えません。

期待値の式はペアに依存しないが、それを実現する時間はペアに強く依存する。 「タイパ」で選ぶなら、スプレッドに対してボラティリティが大きい銘柄(この検証ではゴールド)に限られます。

8. いちばん弱い前提はどこか

モデルの中で唯一、実データで裏を取れていないのが**「Funded後は最大DDぶんを期待抽出できる」**という部分です。ここが崩れると期待値の符号が変わります。

海外の統計を当たると、数字が真っ二つに割れていました。

出典Funded→出金到達
Track36045%
QuantVPS(TopStep)7%

6倍の開きです。ただしこれは矛盾ではなく、ドローダウン方式の違いで説明がつきます。TopStepはトレーリングDDの先物ファームで、利益を出すと下の壁も一緒に上がってくるため、「+W%まで伸ばして出金し、また0から」というサイクルが成立しません。一方で静的DDのファームなら、出金してもリセットされた壁の位置は変わらない。

Fintokei ProTraderは静的DDなので、理屈の上ではTrack360側(45%)の世界にいます。筆者のモデルが弾く「Funded口座から最初の出金に到達する確率」も40〜60%で、この数字とは整合します。

トレーリングDDのファームでこの戦略を回すと、期待抽出額が最大DDを大きく下回り、期待値はマイナスに転びます。 DD方式の違いがここまで効くのは筆者にとっても発見でした。

9. 「徹すればある」の中身:何本回せば実現するのか

期待値がプラスでも、それは平均の話です。実際に手元に残るまでに何本必要かを計算しました。

×40/リスク2%の場合、1本のチャレンジはこういう賭けになります。

確率結果
Funded到達28.9%→ そこから1回でも出金できるのは81.2%
出金まで到達23.4%当たり
落ちる76.6%受験料10.88万円が消える

4本に3本は受験料が丸ごと消えます。 1本あたりの期待値は+29.0万円ですが、標準偏差は103.4万円で期待値の4倍。

ここから、95%の確信をもって累積プラスに乗せるのに必要な本数が出ます。

設定Funded率出金到達1本の期待値標準偏差必要本数必要総受験料
×40 / R1%23.5%20.8%+18.0万82.0万56本610万円
×40 / R2%28.9%23.4%+29.0万103.4万34本375万円
×40 / R4%32.5%18.5%+44.2万150.6万31本342万円
×80 / R2%31.7%26.1%+36.3万115.3万27本298万円

最短でも27〜34本、受験料の総額で300〜375万円。 これが「徹すれば期待値はある」の具体的な中身です。

連敗にも耐える必要があります。10本連続で出金に届かない確率は6.9%(20回に1回以上起きる)、その間に払う受験料は109万円。期待値がプラスであることと、その道中を資金的・心理的に耐えられることは別問題です。

そして本数を稼ごうとすると配分上限にぶつかります。FTMOは1トレーダーあたり合計$400,000が上限で、同時に何十口座も持つことはできません。

ただし「1本あたり何日かかるか」は設定で大きく変わります。ここまでは1日1回に制限していましたが、1日の試行回数を日次ロス枠まで増やすと決着が桁で速くなりました。次章で実測します。

10. 1日の試行回数を「日次枠を使い切る手前」まで増やす

ここまでは1手の経済性を切り出すために1日1回へ固定していました。ここでその制限を外します。

日次ロス上限が5%でリスクが2%なら、もう1回負けても枠内に収まる限り打ち続けられるはずです。しかもこのルールなら日次DDの壁は原理的に一度も発動しません。枠を余らせることには何のメリットもなく、ただ時間を捨てているだけです。

これを本番EAのELDRAにモジュールとして組み込み、XAUUSDで実測しました(デフォルトOFFの追加機能・MQL5専用)。

結果:決着が最大35倍速くなった

設定1日の試行回数チャレンジ1本の決着Phase1突破率独立サンプル
1日1回・リスク1%(前章まで)1.0回139日33.3%3
日次枠まで・リスク1%6.5回19日38.9%36
日次枠まで・リスク2%4.2回9日30.0%50
日次枠まで・リスク4%3.0回4日41.6%89

139日が4〜19日になり、しかも突破率は落ちていません。1日1回という制限には何の意味もなく、ただ時間を捨てていただけでした。

これは期待値の観点でも筋が通ります。1手あたりの期待値はスプレッド1回分で固定なので、同じ日に何回打っても1手あたりのコストは変わらない。壁までの距離も変わらない。変わるのは「壁に到達するまでの実時間」だけです。

日次ドローダウンは本当に守れたか

設定日次損益の最悪日次5%超えの日数
リスク1%−4.51%0日
リスク2%−4.51%0日
リスク4%−9.64%4日

リスク1%・2%では497日・306日を通して一度も日次5%に触れていません。 「枠を使い切る手前で止める」ルールは設計どおり機能しました。

リスク4%が破綻しているのは、1回のギャップ損が想定の4%を大きく超えるからです。次項。

残る唯一の穴:ギャップはSLを飛び越える

全損失の3.3〜3.5%が想定リスクを1割以上超過していました。最悪の例は2026年4月13日(月曜)の1トレードで−8.542%=想定2%の4.27倍。週末ギャップがストップロスを飛び越えたケースです。

これはEVモデルの前提(損失はリスクR%で頭打ち)が壊れる唯一の箇所で、日次枠の管理では防げません。枠は「これから建てる注文」を止められますが、既に建っているポジションのギャップは止められないからです。

ELDRAの週末クローズ機能をONにして再テストしましたが、効きませんでした。理由は曜日の分布を見れば明らかです。

想定超の損失の曜日分布最悪
週末クローズOFF月8・木9・火3・金3・水1−3.67%(月)
週末クローズON月8・木8・水8・金3・火2−5.04%(月)

月曜と同じだけ木曜に出ています。 週末ギャップだけでなく、木曜に集中する経済指標・中銀イベントのスリッページが同じ規模で発生している。週末を閉じても半分しか塞がりません。

タイパの最終評価

前章で「95%の確信で累積プラスに乗せるには43本必要」と計算しました。1本あたりの日数が変わったので、必要年数を出し直します。

設定1サイクル(Ph1+Ph2)年間回せる本数必要年数
1日1回・リスク1%243日1.0本43年
日次枠まで・リスク1%33日7.5本5.7年
日次枠まで・リスク4%7日35.7本1.2年

43年が1.2年になりました。 前章で書いた「数年単位」という見積もりは1日1回という不必要な制限に引きずられたもので、これは訂正します。

ただしリスク4%は日次DDを4日踏み抜いています(ギャップ由来)。タイパを取るとギャップで日次5%を踏む日が出るというトレードオフがここにあります。どちらを取るかは、日次DDで失う分まで込みで期待値を出した次章で答えます(結論はリスク4%)。

11. 最終判定:機械的に回して期待値はあるのか

第6章で「1年のバックテストでは1手の期待値を測れない」と書きました。しかしチャレンジ突破率の期待値なら測れます。1手あたり−0.025%という微小な差を測るのは無理でも、その積み重ねが「壁に当たるか目標に届くか」という二択に変換された後なら、信号が十分大きくなるからです。

そこで検出力の高い推定に切り替えました。窓の数(36〜89本)を数えるのではなく、実測した全トレードの損益分布そのもの(ギャップ・手数料・スワップ込み、877〜3205トレード)を吸収マルコフ連鎖に食わせて壁の到達確率を厳密に解き、トレードを復元抽出するブートストラップ120回で信頼区間を出します。系列相関がないことは分散比検定(0.71〜0.92、有意でない)で確認済みなのでIID仮定は妥当です。

さらにこのモデルは日次DDを含まないため、窓実測(日次DD込み)との比で補正しました。

設定Phase1Phase2日次DDで失う分1本あたりEV95%信頼区間
リスク1%(1日6.5回)38.9%47.9%−1.6pt+6.8万円−2.7 〜 +45.4万
リスク2%(1日4.2回)30.0%35.7%−7.4pt−3.4万円−8.0 〜 +7.5万
リスク4%(1日3.0回)41.6%46.3%−11.8pt+11.9万円+1.8 〜 +38.1万
リスク2%+週末クローズ34.4%40.8%−6.9pt+0.7万円−5.9 〜 +16.4万

リスク4%だけ、信頼区間が丸ごとプラス側にあります。 受験料10.88万円に対して1本あたり+11.9万円、およそ2.1倍の回収。年35.7本回せるので年間+425万円の計算になります。

ただしこの信頼区間が反映しているのはトレード分布のばらつきだけです。次の3つは一切入っていません。

  1. Funded後に本当に出金できるか。 モデルは「最大DDぶんを引き出せる」という停止定理の結果に依存しています。出金頻度制限・最低取引日数・一貫性ルール・ファームの裁量はどれも未検証です
  2. 規約リスク。 ランダムエントリーが「実態のある取引」と見なされる保証はありません
  3. 1年・1銘柄。 XAUUSDの2025年9月〜2026年8月しか見ていません。相場のレジームが変われば分布も変わります

また、いちばん成績の良いリスク4%が日次DDで11.8ポイントも失っている点は見逃せません。これはギャップでストップロスを飛び越えられた分です。リスクを上げるほど1回の事故が致命傷になり、実測でも4日ぶん日次5%を踏み抜いています。

答え

数学的には期待値プラス。ただしプラスなのは「壁と受験料の関係」までであって、そこから先の「実際に出金できるか」は数学の外にある。

第6章で「1手の期待値はバックテストでは測れない」と書きましたが、チャレンジ単位の期待値なら測れて、その答えはプラスでした。ここは前章までの記述より踏み込んだ結論になります。

それでも「機械的に回せば儲かる」と書けないのは、期待値がプラスであることと、その期待値が実際に銀行口座に着地することの間に、数学で扱えない層が3つ挟まっているからです。

12. 複数口座で並列に回すとき、効くのは「速さ」より「独立性」

ここまでは1口座の話でした。実際にこの種の運用をする人は複数口座を並列で回すので、そちらの計算もしておきます。12口座を想定します。

回転率はそのままクーポン消化能力になる

割引クーポンには期限があります。手持ちのスロットが全部埋まっていると、クーポンが出ても見送るしかありません。空きスロットが生まれる速度が、そのまま取れるクーポンの本数になります。

設定1本の日数月あたり空きスロット年間本数
1日1回・リスク1%243日1.5本12本
日次枠まで・リスク1%33日10.9本91本
日次枠まで・リスク2%16日22.5本188本
日次枠まで・リスク4%7日51.4本429本

月1.5本しか空かない運用では、クーポンを取り逃して当然です。日次枠を使い切る設定に変えるだけで月10〜51本になります。前章の「1日の試行回数」は、単に速いだけでなくクーポンを拾える回数を決めているということです。

12口座に増やしても、設定が同じならブレは減らない

これが本題です。期待値は同じでも、口座間の相関で結果のばらつきがまったく違います。

年188本(16日サイクル・12口座)を1年回した場合:

運用期待値標準偏差プラスで終わる確率
口座ごとに乱数シードを変える+2237万円1107万円98%
全口座で同じ設定+2237万円15172万円56%

期待値は完全に同じなのに、プラスで終わる確率が98%と56%。 同じEAを同じ設定で12口座に置くと相関がほぼ1になり、口座を増やしてもブレは12分の1にならず12倍のまま積み上がります。「12口座持っている」という事実が統計的に無意味になる。

これは複数口座運用でいちばん誤解されている点だと思います。口座数を増やす目的は資金量ではなく分散であって、分散は独立性からしか生まれません。

そして相関1は規約上も危険

統計以前に、同一設定の複数口座はコピートレード検知に直撃します。IPフィンガープリントとミリ秒単位の約定照合で、同一IP・同一ロットの約定が10ミリ秒以内に一致するとフラグが立ち、全口座の出金が同時に却下されるケースが報告されています(検知と罰則の詳細)。

ここでコイントス方式には構造的な利点があります。シードを口座ごとに変えるだけで、12口座の売買が完全に無相関になる。約定をずらす小細工が要らず、統計的にも規約的にも独立になります。裁量やロジックEAで同じことをやろうとすると、意図的にパラメータをばらす必要があり、そのぶんエッジも薄まります。

次に当たる壁は「時間」ではなく「資金」と「合算上限」

回転を上げると年間受験料が跳ね上がります(16日サイクルで年2040万円、7日サイクルで年4663万円)。常時拘束される運転資金自体は12本分=131万円ですが、これが回るかは出金が実際に着地するかに依存します。第8章で書いたとおり、ここが唯一の未検証部分です。

合算上限も視野に入ります。

ファーム合計上限
FundingPips$2M
FTMO$40万
Hantec Trader$400K
Fundora6000万円

同一ファームに寄せると上限で頭を打つので、回転を上げるほど分散先のファームが必要になります。

13. で、結局やる価値はあるのか

数学の側は通っています。実測も、測れる範囲では理論と一致しました。それでも「機械的に買い続ければ勝てる」とは書けません。律速が数学ではないからです。

規約の側を確認すると、Fintokeiの禁止事項は「アービトラージ・コピートレード・HFT/ティックスキャルピング・ギャップトレード」の4つで、1日1回のランダムエントリーはどれにも当たりません。自作EAは明示的に許可されています。とはいえ、どのファームにも「取引の実態が伴わない」ことを理由に出金を拒否できる包括条項があり、ランダムエントリーが「正当なトレード」と見なされる保証はありません。ここは規約の文言ではなく運用の裁量で決まる領域です。

配分上限も効きます。FTMOは1トレーダーあたり合計$400,000が上限。複数口座で大数の法則に持ち込む戦い方自体は成立しますが(第12章)、1社に寄せると上限で頭を打つので、口座数を増やすほどファームを分散させる必要があります。

そして分散が極端に大きい。 リスク4%は最大DD10%に対して2.5回分しかなく、3連敗で終わります。期待値がプラスでも、それが実現するのは何十本も回した後です。しかも口座を並べただけでは分散は減りません——第12章のとおり、口座間が独立でなければ12口座はブレの意味で1口座と変わりません。受験料10.88万円×何十本を、途中の連敗に耐えて払い続けられるかは別問題です。

筆者の結論はこうです。

「チャレンジは受験料に対して割安」という構造は実在し、実測トレード分布から解いた期待値もプラスだった(1本あたり+11.9万円、95%信頼区間 +1.8〜+38.1万円)。ただしそれは静的DDのファームに限られ、律速は数学ではなく、ギャップ耐性と規約と「Funded後に本当に出金できるか」にある。

言い換えると、これは**「見つけた瞬間に儲かる裁定」ではなく、「長く続けられる人だけが取れる薄いエッジ」**です。1本あたりの標準偏差が期待値の4倍あるので、10本や20本では何も証明されません。ここは前回の記事で見た「一貫性ルールは時間的集中を罰する」という構造とも通じていて、プロップというゲームは全体として、短期の結果を意図的に無意味にするよう設計されていると言えます。

前回の記事で「平均的なトレーダーはコイントスに負けている」と書きました。今回わかったのは、その裏返しです。コイントスが勝てる余地があるとすれば、それは相場を当てているからではなく、余計なことをしないからです。

検証方法

  • 理論値:チャレンジを吸収マルコフ連鎖として定式化し、到達可能な状態のみを幅優先で展開して線形方程式 (I−A)f = c を解いた厳密解。手数料ゼロ条件で解析解 DD ÷ (目標+DD) と1e-16の精度で一致することを確認済み
  • 実測:MQL5で検証専用EAを新規作成し、MT5ストラテジーテスターで16本を実行(XAUUSDp他・M1・実ティック100%・2025.09.01〜2026.08.28・初期証拠金2000万円)
  • 第10章は同じロジックを本番EA(ELDRA)にモジュールとして組み込み、XAUUSDでさらに8本を実行(計24本)。日次枠の判定は「前日最終tickの残高」を基準にしている(新日の最初のtickで取り直すと、日を跨いだポジションの決済損が当日の枠から漏れるため)
  • 第11章のEVは、実測した全トレードの損益分布(877〜3205トレード・ギャップ/手数料/スワップ込み)を吸収マルコフ連鎖に入れて壁の到達確率を厳密に解き、トレードを復元抽出するブートストラップ120回で信頼区間を出した。日次DDを含まないモデルなので、窓実測との比で補正している
  • 第12章の複数口座の数値は、1本あたりの期待値と標準偏差から相関係数を変えて合成した理論値
  • 損益は残高列の差分から取得しているため、コミッションとスワップを完全に含みます
  • チャレンジ突破率は非重複(独立)な窓のみで集計。重複窓は実効サンプル数が激減し信頼できません

よくある質問

Q. スプレッド×40の「40」に根拠はありますか?

コスト比が 1/M になるだけなので、Mは大きいほど有利です。ただしMを大きくすると1取引の決着時間がMの2乗で伸びます(拡散のため)。×40はゴールドで1取引1.5日という実用的な範囲に収まる値でした。×80以上にすると期待値は改善しますが、チャレンジ1本に何年もかかります。

Q. RRは結局どれがいいのですか?

期待値の観点では完全に無差別です(数学的に必ず−1スプレッド)。実務上はRRを上げると必要トレード数が減り、支払う総スプレッドが減るぶん有利になります。ただしRRを上げると勝率が下がるので、一貫性ルールのあるファームでは利益が少数日に集中して逆に不利になります。この点は前々回の検証と同じ構造です。

Q. リスクを大きくするほど有利なら、1発勝負が最適ですか?

期待値だけ見ればそうなりますが、成立しません。日次ロス上限があるため1回の損失がそこに触れてはいけませんし(日次5%ならリスク4%が上限付近)、最低取引日数の要件もあります。

そして実測すると、リスク4%では日次DDを4日踏み抜きました。ギャップでストップロスを飛び越えられると1回で想定の4倍損することがあり、リスクを上げるほどその一撃が致命傷になります。それでも、日次DDで失う分まで差し引いた期待値はリスク4%が一番高く(1本+11.9万円。リスク2%は−3.4万円)、決着も速くなります(1本4日)。張れる上限を決めているのは日次ロス上限で、そこまでは張ったほうが得でした。

Q. 1日1回に絞る意味はありますか?

ありません。 本記事の第9章まではそう設定していましたが、これは1手あたりの経済性を切り出すための実験条件であって、推奨ではありません。日次ロス枠を使い切る手前まで打てば、突破率を落とさずに決着が139日から7〜33日に縮みます。枠を余らせても得なことは何ひとつなく、ただ時間とクーポンを捨てているだけでした。

Q. 複数口座を持っていますが、全部同じ設定でいいですか?

やめたほうがいいです。 期待値は同じでも、口座間の相関が1に近いと口座を増やしてもブレが12分の1にならず12倍のまま増えます。12口座を1年回した試算で、プラスで終わる確率が「シードを変える」98%に対し「全口座同じ」は56%でした。加えて同一設定の複数口座はコピートレード検知に直撃し、全口座の出金が同時に却下されるリスクがあります。詳しくは第12章。

Q. これは規約違反になりませんか?

Fintokeiの明示的な禁止事項(アービトラージ・コピートレード・HFT・ギャップトレード)には該当しません。ただし各社とも「取引の実態」を理由に出金を拒否できる包括条項を持っており、ランダムエントリーが問題視されない保証はありません。本記事は期待値の構造を分析したものであり、実行を推奨するものではありません。

参照ソース

※ 各社のルールは頻繁に改定されます。購入前に必ず公式サイトの最新版をご確認ください。

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この記事を書いた人

ホソノP |プロップファーム攻略の人

自分のお金でチャレンジを買い、出金まで記録して検証しています。記録した出金は Fintokei・Fundora・Funded7 で合計 610万円、The5ers で $4,776(2026年9月時点)。半裁量EA「ELDRA」の作者。

プロフィールと出金実績X @hosono_p

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