チャレンジ蒸留:複数口座をバラバラの波で走らせ、生き残りだけを次に進める|期待値は同じまま、勝てる確率が13%→81%になった
※ 本記事は考察(オピニオン)です。投資助言ではありません。シミュレーションはモデルによる試算であり、将来の成績を保証しません。ファーム固有のルールは頻繁に更新されるため、必ず各社公式サイトでご確認ください。(検証日: 2026年9月17日)
2026年5月まで、私は全口座に同じ売買をミラーしていました。10口座あれば10口座が同じタイミングで同じ方向に動く。今はまったく違うやり方をしています。
チャレンジ蒸留とは
先に、持ち帰ってほしい形を書きます。
- 複数のチャレンジを同時に買い、1口座ごとに違う戦略を割り当てる(同じ売買をコピーしない)
- 生き残った口座だけを次に進める
- その生き残りグループでも、また別々の戦略で同じことを繰り返す
000000000000000000これだけです。私はこれを「チャレンジの蒸留」と呼んでいます。
そして焚き火のように回します。 爆破したら即座に補填して回転を止めない。利益はさらなるチャレンジの購入と、さらなる波の分散に回す。火を絶やさないことが運用そのものです。
最初は自分でも「サバイバーシップ・バイアスを製造しているだけでは」と疑いました。生き残ったものを見て「強かった」と言うのは、統計のいちばん典型的な間違い方だからです。
そこで 40,000本のモンテカルロで検証しました。結論から言うと、半分は疑ったとおりで、半分は違いました。
5月と今で、本当は何が変わったのか
口座数は変わっていません。変わったのは賭けの本数です。
全口座ミラーは、10口座あっても賭けは1本です。同じ売買をコピーしているので相関は1。10口座が同時に勝ち、同時に負ける。これは「1つの賭けに10倍のチップを積む」のと数学的に同じで、分散していません。むしろ集中しています。
蒸留は、10口座が別々の戦略で走るので賭けが10本になります。相関がほぼ0。片方が死んでも片方は生きている。
同じ「10口座」でも、片方は1本勝負、片方は10本勝負。違いはここだけです。 そしてこの違いが結果を支配します。
| 相関 | 合計の標準偏差 | 1口座あたりの相対リスク | |
|---|---|---|---|
| 全口座ミラー | 1 | N × σ | 1(減らない) |
| 蒸留(独立) | 0 | √N × σ | 1/√N |
20口座なら、蒸留の相対リスクは単独口座の22% まで落ちます。ミラーは何本並べても100%のままです。
大事なのは本数ではなく「波のバラつき」
ここが一番の急所です。本数を増やしても、口座同士の相関が高いままなら、ほとんど何も起きません。
N口座の相対リスク(単独口座を1.0とする)は、口座同士の相関 ρ でこう決まります。
相対リスク = √( (1 + (N−1)ρ) / N )| 相関 ρ | N=5 | N=10 | N=20 | N=100 | N→∞の下限 |
|---|---|---|---|---|---|
| 0.0 | 0.447 | 0.316 | 0.224 | 0.100 | 0 |
| 0.2 | 0.600 | 0.529 | 0.490 | 0.456 | 0.447 |
| 0.5 | 0.775 | 0.742 | 0.725 | 0.711 | 0.707 |
| 0.8 | 0.917 | 0.906 | 0.900 | 0.896 | 0.894 |
| 1.0(全ミラー) | 1.000 | 1.000 | 1.000 | 1.000 | 1.000 |
下限は √ρ です。 相関0.8の口座を何百本並べても、リスクは 0.894より下がりません。 20本で0.900。ほぼ無意味です。
対して相関0なら20本で0.224まで落ちます。効いているのは本数ではなく相関のほう。 だから「すべての口座でバラバラの波」が生命線になります。
これは机上の式ではありません。 実際の価格データで5戦略×8銘柄=40本の戦略を作って測ったところ、戦略どうしの平均相関は0.007(実質ゼロ)でした。中身は最大0.88(同じ戦略をS&P500とダウでやれば当然そっくり)から最小−0.74(同じ銘柄で順張りと逆張り)まで幅広く、平均するとほぼ消えます。検証の全文は分散は本当にフリーランチかにまとめました。
波を分ける方法はいくらでもある
「別々の戦略を10個も持っていない」——これが最初の壁だと思います。でも必要なのは10個の戦略ではなく、10個の違う波です。
相関を下げる効き目の順に並べます。
| 手段 | 想定される相関 | コメント |
|---|---|---|
| 別銘柄にする | 低 | 最も素直。ただし相関の高い銘柄同士(金と銀、NASDAQとS&P)は効果が薄い |
| 曜日で分ける | 低 | 月曜だけ/火曜だけ。取引する日が違えば別の抽選になる |
| 時間帯で分ける | 低〜中 | 東京・ロンドン・NY で分ける |
| エントリー時刻をずらす | 中 | 同じ日でも建値が変わる |
| SL/TP を変える | 中〜高 | 同方向に入るので相関は残るが、決済位置が変われば結果は変わる |
| ロットだけ変える | 1.0 | これは分散ではありません。 単なるスケール変更 |
SL/TPを少し変えるだけでも波は変わります。 同じタイミングで同じ方向に入っても、片方はTPに届き、片方は同じヒゲで狩られる。結果が変われば相関は1を割ります。
ただし手段によって効き目がまったく違います。 SL/TPだけをいじって相関0.8にとどまるなら、20本並べてもリスクは0.900。本数を増やす前に、波が本当にバラけているかを先に確認してください。 曜日分割は「コストがほぼゼロで相関が低い」点で優秀なだけで、唯一の方法ではありません。
注意:方向で分けるのはやめたほうがいい
「口座Aはロング専用、口座Bはショート専用」は一見きれいな分散ですが、同じ銘柄・同じ時間帯でやると、後述する口座間ヘッジと外形が区別できなくなります。 避けてください。
曜日で割っても通過確率は下がらない
「取引回数が5分の1になるなら通りにくくなるのでは」と思うかもしれません。期限のないプランなら、通過確率は変わりません。
目標に届くのが先か、DDに当たるのが先か——これはギャンブラーの破産問題で、答えは1回あたりの賭けの分布と2本の壁だけで決まります。賭けるペースは結果に影響しません。 週5日で3か月かかるものが、週1日なら15か月かかる。変わるのは時間だけです。
なお30日間取引がないと口座が失効する規約を持つファームがあります。曜日で割るぶんには月4回は動くので問題ありませんが、それ以上細かく割るときは確認してください。
前提:1口座あたりで勝てていないと話にならない
蒸留を語る前に確認すべきことがあります。1口座あたりの期待値が正か。 負の期待値を10本並べたら、10倍速く負けるだけです。
2フェーズ $100K を、勝率50%・RR1.0=完全なエッジゼロで40,000本ずつ回しました。1日3トレード、1トレード1%リスク、120営業日。
| プラン | 参加費 | 参加費率 | ファンド到達 | 期待受取 | 倍率 |
|---|---|---|---|---|---|
| FundedNext Stellar Lite | $399 | 0.399% | 12.9% | $1,387 | 3.48倍 |
| FundedNext Stellar 2-Step | $549 | 0.549% | 18.3% | $1,628 | 2.97倍 |
| Fintokei サファイヤ | $529 | 0.529% | 17.3% | $1,491 | 2.82倍 |
| FTMO 2-Step | $540 | 0.540% | 16.9% | $1,381 | 2.56倍 |
エッジがゼロでも、全プラン倍率が1.0を超えました。
理由はチャレンジがコールオプションだからです。負けても失うのは参加費だけ、勝てばファンド口座で上は青天井。この非対称性が、勝率50%・RR1.0という「何の優位性もない人」にも正の期待値を残します。
倍率が1.0を超えていること。これが蒸留の唯一の前提です。ここが崩れたら、以降の話は全部無意味になります。
本題:蒸留は何を生んでいるのか
同じ条件で、口座数だけを変えました。プランは Fintokei サファイヤ($529)。
| 口座数 | 総参加費 | 1本以上ファンド | 期待手取り | 手取りプラス確率 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | $529 | 16.8% | +$942 | 13.0% |
| 5 | $2,645 | 61.4% | +$4,815 | 47.8% |
| 10 | $5,290 | 85.0% | +$9,730 | 65.4% |
| 20 | $10,580 | 97.9% | +$19,322 | 81.1% |
期待手取りは完全に線形でした。 1本あたり $942 / $963 / $973 / $966。誤差の範囲で同じ。蒸留は期待値を1円も生んでいません。 疑ったとおりです。
違ったのは右端の列でした。プラスで終わる確率が 13.0% から 81.1% へ跳ねています。
ここが決定的です。エッジゼロ・1口座の期待値は +$942 ですが、実際にプラスで終わるのは13.0%だけ。残り9割近くは $529 を捨てる。期待値は正なのに、ほぼ毎回負ける宝くじです。
そして宝くじ型の期待値は、何度も引けない人にとっては存在しないのと同じです。1回しか引けないなら、9割の確率で「理論上は勝っていたはずの負け」で終わる。
20本並べると、1本あたりの期待値は変わらないまま、5回に4回はプラスで終わる事業になります。
蒸留はエッジを作る装置ではありません。すでにある正の期待値を、実際に回収できる形に変換する装置です。
エッジがあるなら、話はもっと単純になる
勝率55%・RR1.2を入れるとこうなります。
| 口座数 | 1本以上ファンド | 手取りプラス確率 |
|---|---|---|
| 1 | 92.6% | 92.5% |
| 5 | 100.0% | 100.0% |
| 10 | 100.0% | 100.0% |
5本で40,000本中1本も負けませんでした。 蒸留はエッジを作らない代わりに、エッジを持っている人の不確実性をほぼ消します。 逆に言えば、エッジがない人がやっても「9.4%が76.5%になる」までで、無から有は生まれません。
実データで裏を取った
ここまではコイン投げ(人工的な乱数)での検証です。本物の相場でも同じことが起きるのか、2010年7月から2026年9月の実価格で確かめました。
5つの定番戦略(移動平均クロス / ボリンジャー逆張り / ドンチャンブレイク / RSI逆張り / モメンタム)を8銘柄(金・ナスダック・S&P500・ダウ・原油・ドル円・ユーロドル・銀)に当て、40本の波を作ります。40本のうち25本がプラス・15本がマイナスという、ちょうど現実的な顔ぶれになりました。
そのまま2フェーズのチャレンジに乗せて、実際のカレンダー上の開始日をランダムに選んで4,000回走らせています。波どうしの本当の相関も、値動きのクセも、そのまま入ります。
同じ波を並べても、確率は1ミリも動かない
| 口座数 | 総参加費 | 全滅率 | 1本以上ファンド到達 | プラス率 |
|---|---|---|---|---|
| 1口座 | $500 | 58.4% | 23.8% | 14.6% |
| 5口座 | $2,500 | 58.4% | 23.8% | 14.6% |
| 10口座 | $5,000 | 58.4% | 23.8% | 14.6% |
| 20口座 | $10,000 | 58.4% | 23.8% | 14.6% |
1桁も動いていません。 同じ波を同じ期間に走らせれば全口座が同じ値動きをするので、20口座に $10,000 払っても買っているのは1口座を20枚コピーしたものです。
「本数ではなく波のバラつき」という主張が、実データでそのまま出ました。
分けた数だけで、全滅率が32分の1になる
そこで口座数を10に固定したまま、別々の波をいくつ使うかだけを変えます。参加費は常に $5,000 です。
| 別々の波 | 全滅率 | 1本以上到達 | プラス率 | 期待手取り | 標準偏差 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1本(全部同じ) | 58.4% | 23.8% | 14.6% | +$6,141 | $36,581 |
| 2本 | 37.2% | 38.7% | 23.8% | +$5,471 | $25,622 |
| 3本 | 21.8% | 51.7% | 32.4% | +$5,661 | $21,211 |
| 5本 | 8.8% | 70.3% | 41.9% | +$5,983 | $19,134 |
| 10本(全部バラバラ) | 1.8% | 89.7% | 51.4% | +$5,544 | $14,224 |
期待手取りはほぼ横ばいのまま、全滅率だけが32分の1になりました。 コイン投げのときと同じ結論です——蒸留は期待値を生まず、回収できる形に変換している。
そして2本に分けるだけで全滅率が21ポイント落ちます。 最初の1〜2本を分けることの価値が圧倒的で、そこから先は効き方が鈍っていきます。10本まで増やす価値はありますが、まず2本です。
新しく分かったこと:「良さそうな波」を集めると分散が壊れる
これは想定していませんでした。直近で成績のいい波を選んで並べると、こうなります。
| 選ぶ本数 | 無作為に選んだときの相関 | 直近の成績上位を選んだときの相関 |
|---|---|---|
| 5本 | +0.003 | +0.209 |
| 10本 | +0.010 | +0.137 |
| 20本 | +0.007 | +0.054 |
成績で選んだ瞬間、相関が20倍から70倍に跳ね上がります。
理由は考えれば当たり前で、直近で成績がいい波は、直近の相場環境に合っていた波だからです。似た環境に反応するもの同士は似た動きをします。「金が強かった時期」なら金関連が上位を占め、「トレンド相場」ならトレンド系が並ぶ。
成績にもそのまま出ました。20口座での比較です。
| 選び方 | 全滅率 | 期待手取り | プラス率 |
|---|---|---|---|
| 無作為に20本 | 0.1% | +$11,439 | 58.9% |
| 直近の成績上位20本 | 0.5% | +$8,150 | 54.0% |
無作為に選んだほうが全指標で勝ちました。 上位に入る実力の差より、相関が上がる損のほうが大きかったということです。
良さそうなものを集めると、分散しているつもりで集中しています。 波を選ぶときは「強いもの」ではなく 「似ていないもの」 を基準にしてください。
効くのは2つの軸。混ぜて考えない
ここまでの数字を整理すると、構造の効き目は2つの軸に分解できます。 混ぜると何が効いたのか分からなくなるので、分けます。
期待手取り ≒ 予算 ×(倍率 − 1) ← 倍率 は「参加費率」で決まるプラス確率 は 本数 で決まる ← 本数 は「予算 ÷ 参加費の絶対額」- 倍率(=期待受取÷参加費)を決めるのは、参加費が口座サイズの何%か。絶対額ではありません
- プラス確率を決めるのは本数。こちらは絶対額で決まります
この2つは別々に動くし、逆を向くこともあります。 実在プランで見ます。予算100万円、腕は全ケース同じ(勝率50%・RR1.0=エッジゼロ)。
| プラン | 参加費率 | 倍率 | 本数 | 期待手取り | プラス確率 |
|---|---|---|---|---|---|
| Fintokei エメラルド(5,000万) | 0.620% | 2.41倍 | 3本 | +1,305,720円 | 31.5% |
| Fintokei ルビー(1,000万) | 0.698% | 2.14倍 | 14本 | +1,100,392円 | 66.2% |
| Fintokei サファイヤ(2,000万) | 0.549% | 2.72倍 | 9本 | +1,674,888円 | 60.9% |
| FTMO 2-Step($100K) | 0.540% | 2.56倍 | 12本 | +1,498,500円 | 66.5% |
| FundedNext Stellar Lite($100K) | 0.399% | 3.48倍 | 16本 | +2,342,448円 | 76.9% |
エメラルドを1本買うと、両方の軸で損をする
Fintokei のエメラルドとサファイヤは、ルールが完全に同じです。 目標8%→6%、最大DD10%、日次5%、分配80%。違うのは口座サイズと値段だけ。
それでも結果はこうなります。
- 参加費率が悪い。 エメラルド 0.620% に対しサファイヤ 0.549%。同じルールなのに、大きい口座のほうが口座サイズあたりで高い。 これがそのまま倍率の差(2.41倍 対 2.72倍)になります
- 本数が減る。 100万円でエメラルドは3本しか買えません。サファイヤなら9本
期待値でも確実性でも負けます。+1,305,720円 対 +1,674,888円、31.5% 対 60.9%。「大きい口座を1本」は、この運用では最も筋の悪い買い方です。
逆を向くこともある:ルビーとサファイヤ
一方でルビーを見ると、2つの軸が逆方向に動いています。
ルビーは参加費率が0.698%と最も悪く、倍率は2.14倍とサファイヤに負けます。ところが1本が安いので14本買えて、プラス確率は66.2%とサファイヤの60.9%を上回ります。
期待値を取るならサファイヤ、確実性を取るならルビー。 どちらが正解かは、あなたが「大きく勝ちたい」のか「負けたくない」のかで決まります。2つの軸は独立しているので、片方だけ見て選ぶと間違えます。
割引は2つの軸を同時に動かす唯一の手
参加費が下がると、参加費率が下がって倍率が上がり、同時に絶対額が下がって本数が増えます。 2つの軸が同時に改善する打ち手はこれだけです。だからセールを待つ価値があります。
腕と構造、どちらが効くか
念のため書くと、腕の天井のほうが高いです。同じサファイヤ1本でも、勝率55%・RR1.2にすれば倍率は数十倍になります。エッジの効き目は構造の比ではありません。
それでも構造を先にやるべき理由は3つです。
- 今日実行できる。 プランを選び、クーポンを入れ、本数を決めるだけ
- 確実。 「参加費率の低いプランを選ぶ」は必ず効きます。「勝率を5ポイント上げる」は達成できるとは限りません
- 掛け算になる。 構造は1本あたりの結果に掛かるので、エッジがあるならなお効きます
腕を磨くのをやめろという話ではありません。 ただ、同じ予算・同じ腕でも、プランの選び方だけで期待手取りが +1,100,392円 から +2,342,448円 まで動く。この差はトレードの技術では埋められないし、逆に技術を上げてもこの差はついて回ります。
ファンド口座も蒸留の対象
ここまで読むと「ファンド口座に到達したらゴール」と読めてしまうと思います。違います。蒸留はそこで終わりません。
私はファンド口座も、さっさと出金して爆破します。 期待値はチャレンジ突破にしかないと考えているからです。
なぜ「死守」が間違いなのか
ファンド口座を自己資金と比べると、こうなっています。
- 利益は 80〜90%しか取れない(自己資金なら100%)
- DDに当たったら 永久に失う(自己資金なら負けても翌日また張れる)
- 日次・一貫性・ニュース・ポジション数の制約つき
- ポジションの所有権がなく、支払いは相手の健全性と善意に依存
下方が限定されている代わりに、上方も削られている。 これはオプションそのものです。そしてオプションの価値は凸性にあり、凸性は「行使する」ことで現金になります。 満期まで握り続けたら、時間が価値を削るだけです。
死守するファンド口座は、ただの劣化した自己資金口座です。制約だけ多くて、取り分が少なくて、一度死んだら戻ってこない。
根拠は3つ
⒈ 期待値が初回出金に集中している。
ファンド口座の価値は「死ぬまでに受け取れる出金の合計」です。これは各サイクルの生存を条件にした等比級数になります。1サイクル目は満タンのバッファで始まるので生存率が最も高く、2サイクル目以降は「1サイクル目を生き延びた」条件付き。後ろにいくほど確率が痩せるので、期待値は前方に偏ります。
⒉ 初回出金でバッファが消えるファームがある。
E8 Markets の E8 Pro は公式ヘルプに明記されています。出金を請求した瞬間に、静的DDのラインが恒久的に初期残高へ移動する。 しかも請求できるのは(残高−初期残高)の50%だけ。つまり2サイクル目以降は構造的に1サイクル目より不利で、規約側が「守り抜くこと」にペナルティを課しています。
⒊ そして本命はカウンターパーティリスク。
これが一番大きい。2026年だけでも、FundedNext は $50K 以上でEAを全面禁止に転じ、ATFunded はサービスを停止し、MyFundedFX(Seacrest)は消滅しました。
バッファは「他人の口座の中にある数字」で、出金済みの現金は「自分のウォレットの中の資産」です。 同じ額面でも別物で、ファームが飛べば前者はゼロになります。さっさと出金するのは期待値の話ではなく、資産の所在を移す話です。
数字で見ると回ります
当サイトで実際に受け取った The5ers の初回出金は $1,230.86。一方、Fintokei サファイヤの参加費は $529。
出金1回で、次のチャレンジ2.3本ぶん。 このループが回る限り、口座を守る動機は薄くなります。これが「焚き火」の燃料です。 爆破した口座は即座に補填し、出金した現金はさらなるチャレンジと、さらなる波の分散に回す。
例外:静的DDでラインが動かないファーム
ひとつだけ注意があります。Breakout Prop のように最大DDが完全に静的で、出金しても一切動かないファームでは話が変わります。
$100K の Classic なら失格ラインは永久に $94,000。$110K まで伸ばして出金せずに置けばバッファは16%、出金して $100K に戻せば6%に縮みます。つまりこの型のファームでは、「出金しない」ことがバッファを買う行為になります。E8 のようにラインが動くファームとは逆です。
それでも私が出金を優先するのは、バッファの価値よりカウンターパーティリスクの回避を重く見ているからです。16%のバッファも、ファームが飛べば0になる。ただしこれは「相手を信用しない」という前提に立った選択であって、期待値の計算から自動的に出てくる結論ではありません。そこは区別しておいてください。
捨てているもの:スケーリング
もうひとつ、この運用が放棄しているものがあります。スケーリングプランです。
The5ers Growth、City Traders Imperium の VIP、Hantec(合格のたびに1つ上のサイズのチャレンジへ進める)、Alpha Capital はいずれも、長期生存で口座サイズが上がっていく設計です。爆破前提の運用は、この道を最初から捨てています。
$100K を回し続ける道と、$400K へ育てる道は別の戦略です。合算上限の小さいファームほど、この放棄のコストは小さい(Breakout は $200K が天井なので、育てる余地がそもそも少ない)ので、選ぶファーム次第では実質ノーコストになります。
私たちはトレーダーではなく戦略家です。 1つの口座を育てることではなく、口座という資産を回転させて現金に変えることが仕事になります。
これは「負けを口座に押し付ける」手口ではない
「負ける口座をあらかじめ決めて押し付けてるんじゃないの?」 とよく聞かれます。
できません。 どの口座が勝つかは事前に分からないからです。念のため書いておくと、私は両建てを一切していません。
ただし「押し付け」が成立する形がひとつだけあり、それが口座間ヘッジです。口座Aでゴールドをロング、口座Bで同じサイズをショート。どちらに動いても必ず片方が勝ち片方が負けるので、予測がいりません。 負けたほうは参加費を捨て、勝ったほうがファンドになる。これが「押し付け」の正体です。
機能はします。Fintokei サファイヤ(フェーズ1目標8%・日次5%・最大DD10%)なら、Aが+8%に届くときBは-8%。Bは日次5%で先に飛びますが最初から捨て駒です。2本ぶんの参加費でファンド口座が1本確実に手に入る。通常購入の到達率は17.3%なので5〜6倍効率が良い。だから全社が名指しで禁止しています。
| ファーム | 規約の文言 |
|---|---|
| Fintokei | 「Opposite trading / hedging across multiple accounts or traders」 |
| Breakout Prop | 「Hedging across accounts, including opposing positions on the same or correlated assets」 |
| Apex | 「all accounts must be traded directionally」 |
| Topstep | MES対ES のような代替銘柄での偽装も名指し |
検出はクラスタ判定です。同時刻の反対建玉、デバイスID、IP、ミリ秒単位のタイムスタンプ照合、決済手段、VPS、KYCの重複、第三者ベンダー経由のクロスファーム情報。「別の会社なら見えない」は成り立ちません。 罰則は出金申請時に止められて利益没収、口座閉鎖、再登録不可です。
蒸留とヘッジは向きが逆
| 口座間ヘッジ(禁止) | チャレンジ蒸留 | |
|---|---|---|
| 各口座の建玉 | 同一銘柄・同時刻・同サイズの反対方向 | 別の波・別タイミング |
| 口座間の相関 | −1 | ≈0 |
| 勝者の決まり方 | 構造的に確定・予測不要 | 確率的・事前に不明 |
| 規約 | 明示的に禁止 | 禁止条項なし |
自己診断は一行です。「どの口座が勝つか事前に分かるか?」 分かるならヘッジ、分からないなら蒸留。
⚠️ 外形が似てしまうリスク
意図していなくても、監視には同じ形に見えることがあります。 複数口座は普通、同一IP・同一VPS・同一KYC・同一決済手段になり、クラスタ判定の材料が最初から揃っているからです。
対策は4つ。同一ファーム内で同じ銘柄を走らせない/同じ銘柄を持つ口座は方向を揃える/両建て的なロジックは1口座に閉じ込める(口座内のヘッジは禁止されていません)/曜日で割る。最後が一番きれいで、曜日が違えばそもそも同時刻に建玉が並びません。
実際にやるなら
- 参加費率(参加費 ÷ 口座サイズ)の低いプランを選ぶ。 倍率1.0超が唯一の前提
- 2フェーズで日次4〜5%の帯。 日次3%以下は1トレード1%×3回で3連敗すると機械的に死にます
- 大きい口座を1本、は最悪手。 同じ予算なら小さい口座を多数
- 1口座に1つの波。絶対にミラーしない
- 波の分け方は何でもいい(銘柄・曜日・時間帯・エントリー時刻・SL/TP)。ただし相関が効き目を支配します。ロットだけ変えるのは分散ではありません
- ファームを分散する。 規約の天井と外形リスクの両方に効きます
- ファンド口座に到達したら、さっさと出金する
- 爆破したら即補填。 火を絶やさない
- 生き残りを「良い波」と読まない
危ないところ
相関を測らずに本数だけ増やすのが一番の無駄です。 相関0.8なら20本でもリスクは0.900。「バラけているつもり」が最も危ない。
規約側に天井があります。 Fintokei は3%ルールの警告が口座をまたいで累積(10回でサービス終了)、Breakout Prop は同一IPからの複数口座取引が禁止事項。合算上限もあるので本数を1社に寄せるのは不可能です。
モデルは楽観です。 最低取引日数・一貫性ルール・手数料・出金サイクル・ファンド口座がいずれ死ぬことは未実装。信用していいのは「倍率の順位」と「分散が潰れる構造」で、絶対額は幻です。
まとめ
- ミラーと蒸留は、口座数が同じでも賭けの本数が違う(1本 対 N本)
- 効くのは本数ではなく相関。相対リスクの下限は √ρ。ρ=0.8 なら何本並べても0.894止まり
- 波の分け方は何でもいいが手段で相関がまるで違う。ロットだけ変えるのは分散ではない
- 蒸留は期待値を増やさない。増やすのは「期待値を実際に手にできる確率」で、エッジゼロでも 13.0% → 81.1%
- もう1つの軸は参加費率。倍率が期待値を、本数が確実性を決める。大きい口座を1本は両軸で損
- ファンド口座も蒸留の対象。出金したら爆破し、即補填して火を絶やさない
- 口座間ヘッジとは向きが逆(相関−1 対 相関0)。ただし外形が似るので銘柄とファームは分ける
検証スクリプトは scripts/sim-portfolio-2phase-100k.py に置いてあります。
FAQ
Q. 蒸留すれば勝てるようになりますか?
なりません。 期待値は1口座あたりで決まり、本数を増やしても線形に増えるだけです。検証でも1本あたりの期待手取りは $942 / $963 / $973 / $966 とほぼ一定でした。増えるのは「実際にプラスで終わる確率」だけです。1口座あたりの倍率が1.0を割っていれば、何本並べても負けます。
Q. 何本並べればいいですか?
本数より先に相関を確認してください。 相対リスクの下限は √ρ です。相関0.8の口座なら20本でも100本でもリスクは0.9前後から下がりません。相関が0に近ければ20本で0.224まで落ちます。バラけていない口座を増やすのは、ただの浪費です。相関0なら、エッジゼロで5本47.8%・10本65.4%・20本81.1%(プラスで終わる確率)でした。
Q. 戦略を10個も持っていません。
必要なのは10個の戦略ではなく、10個の違う波です。 銘柄・曜日・時間帯・エントリー時刻・SL/TP、どれで分けても構いません。ただし効き目が違います。 曜日分割は相関が低くコストもほぼゼロなので優秀。SL/TPの変更は相関が残りやすいので、本数を増やしても伸びしろが小さくなります。ロットだけ変えるのは分散ではありません。
Q. 大きい口座を1本買うのはダメですか?
この運用では最も筋の悪い買い方です。 Fintokei のエメラルド(5,000万)とサファイヤ(2,000万)はルールが完全に同じですが、参加費率はエメラルド 0.620%・サファイヤ 0.549% でサファイヤが良く、買える本数も3本対9本。期待値でも確実性でも負けます(+1,305,720円 対 +1,674,888円、31.5% 対 60.9%)。
Q. これは負ける口座をあらかじめ決める手口ですか?
違います。そもそも実行不能です。 どの口座が勝つかは事前に分かりません。「押し付け」が成立するのは口座間ヘッジ(同一銘柄の反対方向を別口座に同時に持つ)だけで、あれは予測がいらない代わりに全社が名指しで禁止しています。自己診断は「どの口座が勝つか事前に分かるか?」の一行です。
Q. 別々の波なら、偶然反対方向になっても大丈夫ですか?
規約上はヘッジの意図がなくても、監視は形で見ます。 同一IP・同一VPS・同一KYCが揃っている複数口座で、同じ銘柄の反対建玉が同時刻に立てば、クラスタ判定の材料になります。Breakout は相関資産まで対象に含めています。ファーム単位で銘柄を分けるか、曜日で割って建玉が並ばないようにするのが安全です。なお同一口座内のヘッジは禁止されていません。
Q. ファンド口座は守らなくていいのですか?
出金を優先して、守りには入りません。 期待値が初回出金に集中していること、E8 Pro のように初回出金でDDラインが初期残高へ恒久的に移動する設計があること、そしてファームが飛べば口座内の残高はゼロになることが理由です。当サイトの実績では出金1回が次のチャレンジ2.3本ぶんでした。ただし Breakout のように出金してもDDラインが動かないファームでは、置いておくことがバッファになるので判断が変わります。
Q. 生き残った波が「良い波」ということですか?
違います。ここが一番危ない誤読です。 エッジゼロの10本でも、85.0%の確率で1本以上が生き残ります。生存は実力の証明ではありません。運用会社が小さいファンドを大量に立ち上げ、負けたものを閉じて生き残りの実績で資金を集める「インキュベーター・ファンド」と同じ構造です。蒸留は資金効率の装置であって、波の選別装置ではありません。
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この記事を書いた人
ホソノP |プロップファーム攻略の人
自分のお金でチャレンジを買い、出金まで記録して検証しています。記録した出金は Fintokei・Fundora・Funded7 で合計 610万円、The5ers で $4,776(2026年9月時点)。半裁量EA「ELDRA」の作者。